羊を逃がすということ

あなたの為の本が、きっと見付かる

2024-11-01から1ヶ月間の記事一覧

【雑記】叔父が死んだ夜|故郷紀行

叔父が死んだ。享年60だった。 仕事の休憩中、突然母から連絡があった。普段はLINEで一方的に要件を送り付ける母からの電話である。出る前から、嫌な予感がしていた。 「お兄ちゃんが死んだ。来てほしい」 電話口の母は泣いていた。私は二、三の慰めを口に…

【書評】大阪|自分の生きる街のエコー【岸政彦・柴崎友香】

私は大阪生まれの大阪育ちだが、よく大阪っぽくないと言われる。 同じ関西人に、大阪出身であると言うと驚かれることが多い。喋りが標準語っぽい(あくまで標準語っぽいだけで、ただの大阪弁である)ところや、あまり気が強くないところが、そんなイメージを…

【雑記】死につつある叔父|故郷紀行

自慢ではないが、私は家族と不仲である。本当に自慢ではない。 色々あったのだ。一言で片づければそれまでだが、私個人としてはのっぴきならない事態である。もし家族と疎遠の方がいるのなら、きっとこの不安を共有してくれるに違いない。即ち、家族が死につ…

【書評】すべての、白いものたちの|失われなかったものの痛みと癒しについて【ハン・ガン】

自慢ではないが、私はミーハーな人間である。 この時期にハン・ガンさんの作品を読むというのは、当然ながらノーベル賞受賞の報せがあったからであり、まんまとそれに乗せられたのだ。 正直なところ、私はあまり韓国文学というものに明るくない。というより…

【書評】灯台へ|寄せては砕ける波のような視点【ヴァージニア・ウルフ】

私は印象派の絵画が好きである。特に敬愛しているのはルノワールで、実物を前にしたときは吸い込まれるような絵に感動を覚えたものだった。 印象派の特徴に、分割筆致と呼ばれるものがある。色は混ぜ合わせると黒に近付いていくが、隣同士に配置すると鮮やか…

【書評】すべての月、すべての年|時代を超えて愛すべき隣人【ルシア・ベルリン】

私にとって初めてのルシア・ベルリンは、数年前に読んだ「掃除婦のための手引書」だった。よく言えば簡素な、悪く言えば味気ないタイトルに惹かれた。短編集で、そのほとんどが一人称で書かれたものだった。 ルシア・ベルリンは明らかに生活を切り貼りしても…

【月ベスト】10月に読んだベスト本|「平熱のまま、この世界に熱狂したい」

やっと秋らしくなってきたと思ったら、もう目の前には冬の気配が迫っている。最近の異常気象の所為なのか、それとも私が歳を取っただけなのか、近頃は秋というものへの感度が低い。暑い夏が終わると、気付けば寒い冬という感覚だ。昔の歌集なんかを読んでい…

【書評】成瀬は天下を取りにいく|正直なまま歩き出す勇気【宮島未奈】

滋賀には一度行ったことがある。 私の連れ合いの誕生日で、魚釣りに興味があるという彼女と一緒に釣り体験に足を運んだのだ。企画していたのは真言宗のお寺で、お坊さんと一緒に魚を釣るというなんだか罰当たりな気がしないでもない経験をした。ちなみに魚は…