羊を逃がすということ

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日本の作家

【書評】大阪|自分の生きる街のエコー【岸政彦・柴崎友香】

私は大阪生まれの大阪育ちだが、よく大阪っぽくないと言われる。 同じ関西人に、大阪出身であると言うと驚かれることが多い。喋りが標準語っぽい(あくまで標準語っぽいだけで、ただの大阪弁である)ところや、あまり気が強くないところが、そんなイメージを…

【書評】成瀬は天下を取りにいく|正直なまま歩き出す勇気【宮島未奈】

滋賀には一度行ったことがある。 私の連れ合いの誕生日で、魚釣りに興味があるという彼女と一緒に釣り体験に足を運んだのだ。企画していたのは真言宗のお寺で、お坊さんと一緒に魚を釣るというなんだか罰当たりな気がしないでもない経験をした。ちなみに魚は…

【書評】平熱のまま、この世界に熱狂したい|弱き者の握る、櫂の力強さ【宮崎智之】

F・スコット・フィッツジェラルドは失われた世代を代表する黄金の作家だった。 彼の代表作である「グレート・ギャツビー」は世代を超えて愛され、何度も映画化されている。その名はある種のダンディズムの象徴とされ、日本では男性整髪料の名として広く知ら…

【書評】「レーエンデ国物語」ファンタジーが世界を創造する【多崎礼】

もうかれこれ十年以上前になるが、私はファンタジー小説というものを読み漁っていた。 始まりは確か、イ・ヨンドの「ドラゴンラージャ」だった。ドラゴンあり、魔法あり、お喋りな魔剣や女盗賊や心優しいエルフあり、ファンタジーの魅力をみっちりと詰め込ん…

【書評】『「性格が悪い」とはどういうことか――ダークサイドの心理学』【小塩真司】

はてさて困ったものだ。 最近、私が勤める会社の人事異動があり、パワハラ気質の上司がやって来てしまった。高圧的で労働環境を悪くするが、一部お気に入りからはカルト的人気があり、数字も出している――つまるところギリギリのラインを攻める人物であり、明…

【書評】中秋の名月も過ぎたが、「ムーンシャイン」【円城塔】

円城塔という作家に思いをはせるとき、真っ先に連想するのは「天才」の二文字である。 思えば、私が円城塔を知ることとなった切っ掛けは、伊藤計劃というSF作家にあった。「虐殺器官」、「ハーモニー」、その他いくつかの優れた作品と「屍者の帝国」という…

【書評】「サンショウウオの四十九日」と肉体の永遠性について【朝比奈秋】

世の中には、身体の一部が結合した状態で生まれてくる子どもがいる。私は彼らのことをシャム双生児という言葉で認識していたが、本書では結合双生児という語が宛がわれる。 何でも、シャムというのは著名な結合双生児の出身地から取られた名称だそうで、近代…

【書評】「理不尽な進化」の先にあるのは、人間か大腸菌か【吉川浩満】

「人間と大腸菌、どちらが進化した生き物だと思う?」 大学の頃、留学生の友人にこんなことを尋ねられた。当時の私は相手がそう答えさせようとしているのだなと勘繰りながらも、「人間」と答えた。私はてっきり「残念、大腸菌です」という答えが返ってくるの…

【書評】「ツミデミック」とパンデミックの受容について【一穂ミチ】

新型コロナウィルスとして世間を騒がせたCOVID-19は、初めは中国で発生した新型肺炎という、所謂対岸の火事としてネットニュースの片隅に掲載され、それから瞬く間に世界を覆いつくした。 当時の私は、大学時代の下宿をそのまま拠点とし、飲食業でアルバイト…