羊を逃がすということ

今日ある本が明日もあるように

海外の作家

【書評】言葉のトランジット | スタックメモリを探索する【グレゴリー・ケズナジャット】

言葉のトランジット 作者:グレゴリー・ケズナジャット 講談社 Amazon 中学の頃、日本語は世界で二番目に難しい言葉だと塾の講師が言っていた。そう言われると、当然ながら一番が気になるところだが、その講師は教えてくれなかった。きっとその人もどこかで聞…

【書評】ヴィルヘルム・マイスターの修業時代 | 憧れを知る者のみが悲しみを知る【ゲーテ】

ヴィルヘルム・マイスターの修業時代 上 (岩波文庫 赤 405-2) 作者:J.W. ゲーテ 岩波書店 Amazon 「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代」は、言わずと知れたゲーテの名著である。これまで「若きウェルテルの悩み」、「ファウスト」を読んで来た私にとっては…

【書評】ツァラトゥストラはこう言った | 人生を愛するということ【ニーチェ】

ツァラトゥストラは こう言った 上 (岩波文庫) 作者:ニーチェ,氷上 英廣 岩波書店 Amazon 「ツァラトゥストラはこう言った」は言うまでもなくニーチェの名著である。 私はどちらかというと、「ツァラトゥストラはかく語りき」というタイトルの方に馴染みがあ…

【書評】夢のなかで責任がはじまる | 現実という名の救いのない悪夢【デルモア・シュワルツ】

毎回、記事を書く度に冒頭で投稿頻度の下がった言い訳をしているような気がする。なかなかどうして、最近忙しいのです。プライベートの言い訳になるが、絶賛転職中である。 特に最近は面接が佳境に入っていて、毎日のように画面に向かってつらつらと自分の人…

【書評】石が書く | 自然の戯れというよりも……【ロジェ・カイヨワ】

石への興味というものは、あまり共感を得られないのだろう。 その昔、高校の修学旅行で山口の秋芳洞に行ったことがある。所謂鍾乳洞で、つららのように垂れ下がった鍾乳石を見ることが出来る。お土産に、私は切り出した鍾乳石を買った。見目鮮やかな橙色で、…

【書評】ファウスト | 悲劇に愛の帯を巻く【ゲーテ】

先日、ゲーテを題材にした鈴木結生さんの「ゲーテはすべてを言った」を取り上げさせてもらった。それ以来、どうしてもゲーテを読みたくなって、手近にあった文庫本を漁り始めた。そんな訳で、今回はゲーテ「ファウスト」である。 私にとって、ゲーテは思い出…

【書評】すべての、白いものたちの|失われなかったものの痛みと癒しについて【ハン・ガン】

自慢ではないが、私はミーハーな人間である。 この時期にハン・ガンさんの作品を読むというのは、当然ながらノーベル賞受賞の報せがあったからであり、まんまとそれに乗せられたのだ。 正直なところ、私はあまり韓国文学というものに明るくない。というより…

【書評】灯台へ|寄せては砕ける波のような視点【ヴァージニア・ウルフ】

私は印象派の絵画が好きである。特に敬愛しているのはルノワールで、実物を前にしたときは吸い込まれるような絵に感動を覚えたものだった。 印象派の特徴に、分割筆致と呼ばれるものがある。色は混ぜ合わせると黒に近付いていくが、隣同士に配置すると鮮やか…

【書評】すべての月、すべての年|時代を超えて愛すべき隣人【ルシア・ベルリン】

私にとって初めてのルシア・ベルリンは、数年前に読んだ「掃除婦のための手引書」だった。よく言えば簡素な、悪く言えば味気ないタイトルに惹かれた。短編集で、そのほとんどが一人称で書かれたものだった。 ルシア・ベルリンは明らかに生活を切り貼りしても…

【書評】ウォールデン 森の生活|人類の目的に対する問い掛け【ヘンリー・D・ソロー】

かつて友人が、ミニマリズムに目覚めたことがある。 デヴィッド・フィンチャーの「ファイト・クラブ」が好きで、資本主義に対する反骨精神を燃やしていた友人だった。彼は部屋の中の家具の全てを捨て去り、身に着ける衣服も最小限に絞ったと言った。そして私…

【書評】決定版カフカ短編集|外的な不条理と感傷の不在について【フランツ・カフカ】

初めて読んだカフカは、新潮社から出ている「変身」だった。世の中の多くの人がそうではないだろうか? あれは高校生のときで、私は軽音楽部に所属していた。ロックバンドという響きに憧れ、大きな声で叫ばれた言葉こそ真実だと思い込んでいた。そこで組んで…

【書評】「愛するということ」、そして本当の自分を生きるということ【エーリッヒ・フロム】

愛というのは、極めて扱い難い観念である。 その原因は、主にハリウッドとディズニーの所為であると、私は思っている。そこから派生する形で巷に広がった様々なフィクションも、残念ながらその傾向に拍車をかけたと言わざるを得ない。 そうは言っても、私は…

【書評】「百年の孤独」は如何にして孤独であったか【ガルシア=マルケス】

私と弟がまだ小さかった頃、近所の田んぼでカエルを捕ったことがある。 どうしてそんなことになったのかは覚えていないけれど、とにかく捕って捕って捕りまくった。きっと子供心に狩猟本能をそそられたのだろう。だとしても、帰る間際に逃がしてやれば良いも…