遅きに失した感があるが、8月のまとめ記事である。
8月は私の本職が繁忙期に当たるので、なかなか慌ただしい日々だった。ブログの執筆ペースを落とさず続けられているのも、偏に読んで下さる皆様のお陰である。スターは勿論、ブログ村へのアクセスやランキングボタンも、全てモチベーションの源である。
なにより当ブログを介して新しい本との出会いに結び付けていただければ、これ以上に嬉しいことはない。
そんな訳で、以下が8月のラインナップである。純文学系の小説を中心に、流行のものをチョイスしたつもりだ。中には書評に書き起こしていないものもあるが、それは本の出来栄え云々という話ではなく、当ブログの方向性と照らし合わせて微妙に指針の異なるものを省いた結果に過ぎない。どれも勉強になる本ばかりだった。
・きりぎりす/太宰治
・ザリガニの鳴くところ/ディーリア・オーエンズ
・バリ山行/松永K三蔵
・月ぬ走いや、馬ぬ走い/豊永浩平
・はじめての短歌/穂村弘
・なぜ働いていると本が読めなくなるのか/三宅香帆
・「叱れば人は育つ」は幻想/村中直人
その上で、今回の記事では最も読んでほしい8月の本を選ぶこととする。
誤解があってはいけないので、初めに弁明しておくと、その趣旨は本に優劣をつけることではない。ただ世の中にある沢山の書物の中で、純粋に少しでも指標となればという思いである。基準は私の独断と偏見であり、過分に好みが反映されている。
早速、本題であるが……8月のベスト本は松永K三蔵「バリ山行」である。
既に話題書である本書を改めて選んだのは、この「バリ山行」という書物が改めて読書経験の取っ掛かりになり得ると思うからだ。気取ったところもなく、かと言ってリアルを追求した作品にありがちのような苦渋に満ちているばかりの話でもない。言うなれば、現実的な視点と文学的な視点のバランスが絶妙なのである。という訳で、僭越ながらこちらに改めて当該書籍のレビュー記事を張らせていただく。
【書評】バリ山行【松永K三蔵】 - 羊を逃がすということ (hatenablog.com)
さて、「バリ山行」の紹介は上記の記事に譲るとして、ここでは読了後に読みたい(読みたくなる)本を紹介したいと思う。
一冊目はアーネスト・ヘミングウェイの「老人と海」である。
言わずと知れた名作である。「日はまた昇る」、「われらの時代・男だけの世界」などを読んだが、私はこの「老人と海」が一番好きだ。この本、何が凄いかというと、淡々とした無骨な文章であるのに、そこで描写される風景があまりにもグラマラスで、読むたびに痺れるほど格好いいのである。憧れが強過ぎて原文に挑戦した過去があるくらい、思い出深い一冊である(ちなみに翻訳されたものは実家に置いてきてしまった。写真は英語版である)。
ちなみにこの小説、個人的な感想であるけれど、何処か「バリ山行」を思わせるところがある。清々しいラストシーンに共通項がぼんやりと見えるのは私だけだろうか? 山の次は海、そんなレジャー感覚で取ってみても面白いかもしれない。
もう一冊は小説ではなくノンフィクション。「ドキュメント 道迷い遭難」である。
これは山に関する本を探して我が家の本棚を漁るうちに見つけた一冊だ。様々な場面での道迷い遭難が克明につづられており、読めば胃の縮む思いをすること請け合いである。
ちなみに、私がこの「道迷い遭難」で最も印象に残っているのは、笹薮の中で遭難した女性のエピソードである。途方もない笹の中を泳ぐようにして歩く様は、読んでいて息苦しささえ感じる程だった。実際、私はメガさんの実行する「バリ山行」の描写を追っていた時、この本のことばかりを考えていた。それくらい真に迫ったドキュメントである。
本当のところを言うと、「バリ山行」が山岳小説であるだけに、ここでも山に関する小説を取り上げたい気持ちはあった。しかしその実、紹介しようにも読んでいない本が多かったので、最後に「もし読んでいたら取り上げたかった……」というタイトルも幾つか挙げさせてもらいたい。
夢枕獏さんの小説。小島秀夫監督の著作「創作する遺伝子」にも取り上げられ、気になっている一冊。山岳小説といえばこれと名指しされるほどの名作だが、残念ながら未読である。
・羆嵐
吉村昭さんの小説。厳密には山岳小説ではないかもしれないが、山と熊の親和性が高いので取り上げた。実際にあった害獣事件を題材にしたとのことで、粗筋を読むだけで背筋が震える。実際、私が熊を怖いと思った原因は、Youtubeにまとめられたこの小説の動画の所為である。そんな訳で未だに読めずにいる。
という訳で、以上が8月のまとめである。あまり読むのが早い方ではないが、来月も楽しく読書が出来ればと思う。よければお付き合いしてやって下さい。