羊を逃がすということ

今日ある本が明日もあるように

【書評】ロイヤルホストで夜まで語りたい | 愛されるレストランが当たり前にあるということ【朝井リョウ、平野紗季子、柚木麻子ほか】

 

 

 何度かこのブログで述べているが、私はもともと飲食業の正社員だった。何かしらの明確な目標があってその職についていた訳ではない。動機はほぼ成り行きで、その甘ったれた行動指針に導かれるまま、現在は退職している。

 

 そんな元・飲食業界に身を置いていた私にとって、ロイヤルホストというのは少々異色な存在である。何故なら昨今のファミレスは価格競争が激しくなっており、安さ=正しさとなりつつあるからだ。

 このビジネスモデルを支えるのは物量であり、損益分岐点を超えられるかどうかが鍵となる。商品が安いというのには、勿論理由がある。人件費を極限まで削ったり、食材の組み合わせでバリエーションを持たせたり、とにかくバッシングして回転率を上げたり……。それは勿論、数字としては正しいのだけれど、レストランとしての立ち位置としてはどうなのだろうか? と思わないでもない。

 

 例えば、モバイルオーダーを導入した店舗では、「お客様が従業員を待つ必要がない」=「お客様にとって利益である」というようなアクロバティック論法が取られる。これは一見正しいように見えるが、「お客様が電子機器を操作して注文内容を入力する」という手間が増えているので、厳密には破綻している。さながら、内容量を減らしたコンビニ弁当に「女性にもやさしい」とポップをつけるようなものである。物事の一面だけを強調した、偽物のホスピタリティと言えよう。

 

 そういう意味で、ロイヤルホストはファミレスとして特殊なアプローチを採用している。安易な価格競争に加担せず、お客様視点での真のホスピタリティを提供している。これはある種、既存の飲食業界に対するアンチテーゼである。

 既存のレストランは、半ばファストフード化することで、本来のレストランが大切にすべき矜持を投げ打ってきた。それはさながらチープなアトラクションであり、顧客の食事をベルトコンベアの一部に取り込む作業である。

 

 さて、そんな荒波に飲まれず、孤高に輝くロイヤルホストの看板を、様々な作家がエッセイとして書き起こした。これはそんな、ロイホ愛に満ちた一冊である。

 

 

  • あらすじ

ロイヤルホストで味わえる、おいしい特別な時間。

朝井リョウ、平野紗季子、柚木麻子ほか、豪華執筆陣17名による”ロイヤルホスト愛”でいっぱいのエッセイアンソロジー

 

  • 書評

 書評、といっても、ただただロイヤルホストを利用する作家やエッセイストの方たちが、ひたすらロイヤルホストにまつわる話を書いているという本である。素晴らしいのは、ただ「ロイヤルホスト万歳!」という内容になっていないところだろう。

 ここにあるのは純粋なロイヤルホストに対する賞賛ではなく、ロイヤルホストという場所に纏わる個人の物語である。

 

 思えば、そういう場所になるレストランというのは、そう多くはないのだろう。飲食業は諸行無常の世界で、生まれては潰えるを繰り返す儚い職場である。大手チェーンで働いていた私も閉店を経験しているし、特にコロナの時期は地獄のようだった。

 

 そんな中で、同じ看板を掲げながら、誰かにとって特別な場所であり続けるというのは、ただ腹を満たす為の場所というのとは違うのだろう。特にこのエッセイを読んでいて好奇心をそそられたのは、豊富なドリンクバーやアツアツのオニオンスープ、栗の入ったコスモドリアである。本書を読んで、私は思わずロイヤルホストに足を運んでしまった。なので脱線しつつも、元・飲食業という立場から、このロイヤルホストと対峙してみたい所存である。

 

 

 まずはこちら。ドリンクバー、その中でも特にプッシュされていた「パラダイストロピカルアイスティー」。フルーティでありながらくどくなく、全く食事の邪魔をしない。しかも驚くべきは、このドリンクバーの充実度合である(などと言いつつ、店員さんの眼があって写真は撮れなかった。どうか各自で確認してもらいたい)。

 

 紅茶のバリエーションは同業他社の追随を許さず、ホットのココアもバーホーテンでこくタップリであった。難点を挙げるとすれば、コーヒーメーカーの上を背伸びで覗いてみると、豆が幾らか散らばっているのが見えたところだろう。背の低いアルバイトが横着して入れると、零れてしまうことが多々あるのだ。しかし欠点はそのくらいで、清掃状態も概ね良好だった。

 

 

 次にこちら、「オニオングラタンスープ」。アツアツのスープが食前に出てくるというコース料理を意識した提供で、非常にグッドである。濃厚で甘みのあるオニオンスープは、味の濃いメインより先に供されることで、仄かな甘みまで堪能できるのだ。

 スープの底に滑り止め用のナフキンが置いてあったり、スプーンが右利きで取り易い方向に置いてあるというのも、基礎的ですがしっかりしている。

 

 

 そしてお待ちかねの「コスモドリア」。これは美味しかったですね。ホワイトソースの中に、チキンや栗が入っていて粉っぽさもない。はたしてこのホワイトソースは、店舗で作っているのでしょうか? 具材の量を考えると手間が凄そうだし、かといって工場産にしては本格的だし……なんてことを思ったり。

 

 はてさて、エッセイの書評と謳いつつ、ほぼほぼロイヤルホスト体験記になってしまった。ある意味まんまと罠に嵌ってしまったのかもしれない。

 ちなみにエッセイを書かれている皆様は本当に猛者ぞろいで、芥川賞やら直木賞やらを取った方々が並んでいる。そんな彼ら・彼女らのロイヤルホストエッセイが面白くない筈がないので、これは買いです。是非とも購入いただいた上で、ロイヤルホストでゆっくりと読んでいただきたい。

 

P.S. 結局、最後はデザートとしてパンケーキまで食べ、満腹で帰りましたとさ。