羊を逃がすということ

今日ある本が明日もあるように

2025-01-01から1年間の記事一覧

【書評】光と私語 | 歌を詠むことの自由さ【吉田恭大】

光と私語 (いぬのせなか座叢書, 3) 作者:吉田恭大 いぬのせなか座 Amazon 基本的に、文学と呼ばれるものの最大の魅力は自由である。 私がそう感じるのは、文学が閉じた行為だからだろう。聞きかじった話だが、かつて文学は声に出して読み上げるものだったと…

【書評】あなたに犬がそばにいた夏 | 原風景の引き出しを開ける【岡野大嗣、佐内正史】

あなたに犬がそばにいた夏 作者:岡野大嗣 ナナロク社 Amazon 私は短歌が好きである。 俳句でも川柳でもなく、なぜ短歌が好きかと言うと、やはりその文量が丁度いいのだろう。俳句だと季語が入ってくるので、何かを表現するのに強い制限をかけられている気が…

【書評】渇愛 頂き女子りりちゃん | 誰がりりちゃんを生んだのか【宇都宮直子】

渇愛 ~頂き女子りりちゃん~ 作者:宇都宮直子 小学館 Amazon 普段、私は非常に地味な生活を送っている。通っていた大学が教育大だったからか、合コンにも参加したこともないし、相席屋やマッチングアプリなんてものに手を出したこともない。社会人としての…

【書評】随風 | 随筆の風に吹かれて

随風 (01) 作者:宮崎智之,仲俣暁生,友田とん,早乙女ぐりこ,海猫沢めろん,オルタナ旧市街,ササキアイ,鈴木彩可,作田優,岸波龍,竹田信弥,柿内正午,横田祐美子,野口理恵,北尾修一,森見登美彦,円居挽,あをにまる,草香去来,西一六八 志学社 Amazon このブログは書…

【書評】言葉のトランジット | スタックメモリを探索する【グレゴリー・ケズナジャット】

言葉のトランジット 作者:グレゴリー・ケズナジャット 講談社 Amazon 中学の頃、日本語は世界で二番目に難しい言葉だと塾の講師が言っていた。そう言われると、当然ながら一番が気になるところだが、その講師は教えてくれなかった。きっとその人もどこかで聞…

【書評】ヴィルヘルム・マイスターの修業時代 | 憧れを知る者のみが悲しみを知る【ゲーテ】

ヴィルヘルム・マイスターの修業時代 上 (岩波文庫 赤 405-2) 作者:J.W. ゲーテ 岩波書店 Amazon 「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代」は、言わずと知れたゲーテの名著である。これまで「若きウェルテルの悩み」、「ファウスト」を読んで来た私にとっては…

【雑談】まだまだ夏だね、文学フリマに出掛けた話

九月中頃に入っても、まだまだ秋の気配は訪れず、それは万博の終わりまで夏であることを努めて維持しようとしているかのようである。大阪万博は、中央線のコスモスクエアのその先、夢洲にて行われる。中央線のどんつきは長らくコスモスクエアであったが、万…

【書評】起きられない朝のための短歌入門 | ストレンジャーであるということ【平岡直子、我妻俊樹】

起きられない朝のための短歌入門 作者:我妻俊樹,平岡直子 書肆侃侃房 Amazon 先日、新潮新人賞の結果発表があった。例に漏れず、私は応募していたのだが、今回は二次選考突破三次選考落ちという結果で終わってしまった。 新人賞に応募しているアマチュア作家…

【書評】ロイヤルホストで夜まで語りたい | 愛されるレストランが当たり前にあるということ【朝井リョウ、平野紗季子、柚木麻子ほか】

ロイヤルホストで夜まで語りたい 作者:青木 さやか,朝井 リョウ,朝比奈 秋,稲田 俊輔,上坂 あゆ美,宇垣 美里,織守 きょうや,温 又柔,古賀 及子,高橋 ユキ,似鳥 鶏,能町 みね子,平野 紗季子,ブレイディ みかこ,宮島 未奈,村瀬 秀信,柚木 麻子 朝日新聞出版 Am…

【雑記】転職活動を終えたという話

現在、ゲーテの「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代」を読んでいる。丁度上巻を読み終えたところだが、これがなかなか面白い。ゲーテは「ウェルテル」と「ファウスト」を読んだが、それらよりも好みかもしれない。しかしその感想は個別記事に譲るとして、…

【書評】死の瞬間 人はなぜ好奇心を抱くのか | 誰も避けることの出来ない終端について【春日武彦】

死の瞬間 人はなぜ好奇心を抱くのか (朝日新書) 作者:春日 武彦 朝日新聞出版 Amazon 「死をはじめて想う。それを青春という」 そんなキャッチコピーを眼にしたことがある。確か山田風太郎さんの「人間臨終図鑑」の帯に記された言葉だったと思うが、未読かつ…

【書評】なぜ人は自分を責めてしまうのか | 自責からの解放の旅路【信田さよ子】

なぜ人は自分を責めてしまうのか (ちくま新書) 作者:信田さよ子 筑摩書房 Amazon 「なぜ人は自分を責めてしまうのか」 信田さよ子さんの書かれた本書を買い求めたとき、私の念頭にあったのは前職での出来事だった。 前職を、私は人間関係が原因で辞めている…

【書評】ツァラトゥストラはこう言った | 人生を愛するということ【ニーチェ】

ツァラトゥストラは こう言った 上 (岩波文庫) 作者:ニーチェ,氷上 英廣 岩波書店 Amazon 「ツァラトゥストラはこう言った」は言うまでもなくニーチェの名著である。 私はどちらかというと、「ツァラトゥストラはかく語りき」というタイトルの方に馴染みがあ…

【書評】樟の窓 | 日常のささやかなさざめき【大辻隆弘】

樟の窓 (短歌日記シリーズ) 作者:大辻隆弘 ふらんす堂 Amazon 初めに断っておくと、私は短歌の素人である。 それを言えば小説だって素人なのだが、少なくともそちらは読んだ冊数がある程度の力になるのではと思っている。だが歌集ともなると、まともに読んだ…

【書評】工場 | ちょっとしたいやらしさを彷徨う【小山田浩子】

工場(新潮文庫) 作者:小山田浩子 新潮社 Amazon 小山田浩子さんと言えば、数年前に「穴」で芥川賞を取った方である。当時読んだ印象は、ちょっとした現実のいやらしさを書くのが上手な作家というものだった。ちょっとしたいやらしさ、というのは、具体的に…

【書評】パーク・ライフ | 目的地を告げないまま何処までも【吉田修一】

パーク・ライフ (文春文庫) 作者:吉田 修一 文藝春秋 Amazon 吉田修一さんの「パーク・ライフ」は、私が在籍していた前職の上司が勧めてくれた本である。 正確には、勧められたのは別の作品だったが、その過程で本書の話題が上がったのだ。「公園にずっとい…

【書評】おいしいごはんが食べられますように | 弱さに対する理不尽な憧れ【高瀬隼子】

おいしいごはんが食べられますように (講談社文庫) 作者:高瀬隼子 講談社 Amazon 自分で言うのもあれだが、私は自炊をする方だと思う。でも、決して自炊が好きな訳ではない。ただ単純に外食だと高くつくから、自炊をしているに過ぎない。 現在、私は転職活動…

【書評】夢みる石 石と人のふしぎな物語 | 石の時間に耳を澄ます【徳井いつこ】

夢みる石: 石と人のふしぎな物語 作者:徳井 いつこ 創元社 Amazon 最近、石に興味がある。例えば、少し前に「石が書く」というロジェ・カイヨワさんの本を、このブログで取り上げた。こちらはその道の方には知られた本だったようで、突然ブログの来訪者が増…

【書評】夢のなかで責任がはじまる | 現実という名の救いのない悪夢【デルモア・シュワルツ】

毎回、記事を書く度に冒頭で投稿頻度の下がった言い訳をしているような気がする。なかなかどうして、最近忙しいのです。プライベートの言い訳になるが、絶賛転職中である。 特に最近は面接が佳境に入っていて、毎日のように画面に向かってつらつらと自分の人…

【書評】同志少女よ、敵を撃て | 戦争は誰の顔をしているのか【逢坂冬馬】

私は、戦争を知らない世代である。 日本に住む多くの人々は、きっとそうであろう。戦争と言えば、広島や長崎の平和学習で学び、「戦争は怖いもの」「原爆は恐ろしいもの」と、最早触れてはならない常識の範疇に書き込まれてきた世代である。事実、戦争は本当…

【書評】石が書く | 自然の戯れというよりも……【ロジェ・カイヨワ】

石への興味というものは、あまり共感を得られないのだろう。 その昔、高校の修学旅行で山口の秋芳洞に行ったことがある。所謂鍾乳洞で、つららのように垂れ下がった鍾乳石を見ることが出来る。お土産に、私は切り出した鍾乳石を買った。見目鮮やかな橙色で、…

【書評】デートピア DTOPIA | 下腹部をいたわりたくなる本……【安堂ホセ】

先日、書店に足を運んだ時、もう芥川賞の発表なのかと時間の流れを切実に感じた。つい最近、「バリ山行」や「サンショウウオの四十九日」に関する書評を書いた気がするというのに、もう次の作品が発表されている。そんな訳で、買わずにはいられなかったのが…

【書評】ファウスト | 悲劇に愛の帯を巻く【ゲーテ】

先日、ゲーテを題材にした鈴木結生さんの「ゲーテはすべてを言った」を取り上げさせてもらった。それ以来、どうしてもゲーテを読みたくなって、手近にあった文庫本を漁り始めた。そんな訳で、今回はゲーテ「ファウスト」である。 私にとって、ゲーテは思い出…

【書評】ゲーテはすべてを言った | 歴史は繰り返さないが、韻を踏む【鈴木結生】

久し振りの書評である。 ここしばらく、プライベートが何かと忙しくて、ついついブログに手が伸びなかった。そうは言いつつ本は読んでいたのだけれど、小説というよりビジネス系のものが多く、このブログの趣旨にも合わないので、書くことがなかったというの…

【雑記】これまでの話と、これからの話

書評ブログと名乗っていながら、本を読む暇がまるでなかった。言い訳をすると、仕事が忙しかったのだ。とは言え、通常業務が極端に増えたとか、そういう話ではない。転職活動やら退職の手続きとやらで、プライベートの時間が確保できなかったというのが、実…

【雑記】四十九日にエロ本を探す|故郷紀行

伯父が亡くなった。享年六〇だった。 伯父については過去に何度か記事にしているので、興味のある方はご一読いただければと思う。先日、その伯父の四十九日があった。休みを取ることが出来たので、私は故郷へと戻った。 伯父が亡くなってから、地元に戻る機…

【書評】耳に棲むもの|耳に纏わるざらついた物語【小川洋子】

随分長い間が空いてしまった。 12月以降、他界した伯父の後始末であったり、年末年始のごたごたであったりで、すっかり無沙汰になってしまった。気付けばクリスマスもとうに過ぎ去り、早くも新年である。皆様、明けましておめでとうございます。どうぞ今年…